鎌倉市で教育の変容を進める高橋教育長に、鎌倉市の目指す教育の形、高橋教育長を動かす原動力や改革を進めるアントレプレナーシップについてお伺いしました。
インタビューさせていただく方

高橋洋平様
東北大学教育学部卒業後、文部科学省に入省。教育DXや福島県の震災復興などに従事。外資系コンサルティングファームにて学校組織の改革などに取り組む。2023年8月に鎌倉市教育委員会教育長に就任。
鎌倉の人、文化、自然が子供達の多様な学びを作っていく
Q. 高橋様が鎌倉という湘南の地に来られたのはどうしてなのでしょうか?

高橋様
鎌倉に来たのは教育長に任命いただいた縁があったからですが、鎌倉は多様で魅力的な人々が集まり、豊かな文化や自然にも恵まれた、新しい教育モデルを実践するにはもってこいの地域です。例えば、学校に通うことに辛さを抱えている子どもたちが、海や森、街やお寺などでのフィールドワークを通じて、子供たちは自然環境について学び、学びに向かう力をつけていっています。
Q. 鎌倉市の多様性と豊かな自然環境が教育改革にプラスになっているのですね。

高橋様
そうです。鎌倉の魅力を最大限に活かすことで、子供たちにとってより魅力的で効果的な学びの場を提供することができます。
また、地域の企業や大学との連携も進めやすく、社会に開かれた教育課程を実践するうえでの多様なパートナーシップが築ける点も大きな利点です。
子供たちが自ら問いを持ち、主体的に学ぶ環境を作る
Q. 高橋様が現在鎌倉市で教育改革に取り組まれている推進力の背景には、どのような経験や思いがあるのでしょうか?

高橋様
一つ大きな経験は、福島県での復興教育の取り組みです。原発事故後、多くの子供たちがプレハブなどの仮設校舎で学びましたが、その中で子供たち自身が「仮」の校舎を「本物の学校」として捉え、そこでの学びに誇りを持っている姿を見て、教育の本質について深く考えさせられました。大人にとっては「仮」の校舎でも、先生や友達と切磋琢磨し、学びあった「本物」の時間がありました。与えられる学びではなく、自分たちで復興や学びを掴み取っていくことで、はじめて立ち上がっていく様子を目の当たりにしました。
子供たちが自ら問いを持ち、主体的に学ぶ環境を作ることが重要だと考えています。これを実現するために、鎌倉市では「炭火」というビジョンを掲げています。炭火が一度火がついたら長く燃え続けるように、子供たちが生涯にわたって自ら主体的に学び続けることを目指しています。このビジョンを実現するために、デジタル技術の活用や自然環境を利用した学びの多様化を進めています。
Q. 具体的な取り組み内容について教えていただけますか。

高橋様
一つにスクールコラボファンドがあります。スクールコラボファンドは、企業や個人からの寄付を募り、その資金を使って新しい教育プログラムを実施するものです。このファンドを活用して、企業や大学とのコラボレーションを進めています。例えば、大学とコラボしたSDGsの学びや、テックベンチャーとのプログラミング教育など、多様なプロジェクトを実施しています。
学校が未来につながる学びを自前で提供しようとしても、人的・金銭的リソースは必ずしも十分ではありません。このファンドを通じて、教育現場に新しい風を吹き込み、子どもたちがよりワクワクする学びの場を提供しています。企業が持つ最新の知識や技術とコラボしながら、子どもたちは来るべき未来の期待や実感を感じてくれていると思います。
「知識を教える人」から「学びのコーディネーター」へ
Q. 個別最適な学びを推進していく中で、教師の役割はどのように変わっていきますか?

高橋様
教師はこれまで教えることが役割が主でしたが、新しい教育モデルでは、教師は「学びのコーディネーター」としての役割を果たすことが求められています。
学習の主体はあくまで子供達だという視点に立った時に、教師は学習環境を整え、学びのプロセスをコーディネートする必要があります。これからはAIが人間が苦手な学びの部分を補っていくことになります。とするならば、教師は知識の伝達する存在から、生徒が主体的に学び続けるための支援者となり、学習の動機付けや提案、問いかけなどを行う時間が長くなると思います。
企業と一緒に教育を進めていく
Q. 民間企業に対する期待はありますか?

高橋様
たくさんあります!学校教育だけでは限界があるため、企業との連携が不可欠です。子供達はやがて社会に出るので、教育を学校という場所だけでやろうというのが不自然だなと思います。企業が持つ最新の知識や技術を教育現場に取り入れ、子どもたちの学びを支える役割を期待しています。特にデジタルの領域では一緒にやれることは多いと思います。
鎌倉市でも、スクールコラボファンドを通じて企業や大学とのコラボレーションを進めています。企業が既に取り組んでいる最先端のものを学校の中に持ち込み、先生と子どもが一緒になって学ぶ。子どもたちがワクワクする学びを自らつかみ取っていけるような機会をつくりたいと思っています。これからも多くの企業が教育の世界に参入し、持続的に子どもたちの未来を共に支えることを期待しています。
インタビューを経ての学び
中高生のうちに偏差値よりも学ぶべきことがあるのではないか、という問いが今回のインタビューの出発点でした。
学習者が主体となって自分の興味、疑問から始まり学び取っていく学習というビジョンとして「炭火」というキーワードに非常に感銘を受けました。
それぞれの生徒の興味、疑問から得られた学びが評価され、生涯を通じて自分の興味、疑問に身を任せて生きていけるような素敵な教育、社会の一端を担えるよう、
引き続き私自身も学び続けようと思う刺激的な機会をいただきました。

