※インタビューアー(松本紘佳)はインタビュー時(2022年9月20日)、慶應義塾大学大学院でアンチエイジングを研究する研究室に在籍し、ヴァイオリン生演奏が動物にどのような影響を与えるのか、について研究をしていた。
Q. 一型糖尿病と音楽というキーワードでPubMed検索をしてみたところ、一件のみパイロットテストの論文(2016年)が確認されました。(インタビュー当時)その論文は、子どもの一型糖尿病を対象とした研究で、録音された音楽を聴くと、子どもの患者のグルコースのレベルに作用したというという結果が出ていたと報告されていました。このような研究に対してどのようにお考えですか。

野中社長
現在世界でヘルスサイエンスに対するアプローチは、疾患を治すというアプローチとエイジングに対するアプローチに分かれています。エイジングに対するアプローチは製薬会社ではなく、Google社やApple社、という企業が投資している世界です。これらの企業は、寿命をアルゴリズム、プログラミングやデータサイエンスをフル活用して開発を行っています。
先ず病気は、原因が一つのものもあれば、原因が複数あるものもあります。
例えば遺伝子のプログラミングの変更が理由でタンパク質の変異によって病気になる、というようなものや、色々な理由が重なり、遺伝子のみならず環境の変化から病気になるというものもあります。
例えば、高血圧、糖尿病も色々なファクターが関りその病気の成り立ちとなっています。
治療する際に、単一遺伝子の異常が原因で病気になっているという場合は、その遺伝子を治療すれば良いですが、糖尿病の原因を探る中で、例えばヴァイオリンによる治療が効いているとした場合、何故それが効果があるかということが予測でき、そのことを証明できるなら、そこからヴァイオリンの生演奏が糖尿病に効くというロジックを立てていくというのであれば、我々が入りやすい世界です。
とはいえ一方で、そのロジックは分からないけれど、ヴァイオリン演奏による介入(intervention)が効くかどうかということを検査するとなると、世の中には色々な方法がある中、なぜヴァイオリン生演奏を手段として選ぶのか、そのようなことから考えていくことになるので、どのようなideologyがあり、なぜそれが効くかということをロジカルに解決していってこそ、治療になると思います。
やはり大切なのは、仮説をどのように作るかということが大事だと思います。患者一人一人のプロファイリングがあり、患者本人の病気の成り立ちからこのようにすれば病気を治療できるのではないか、という仮説を立て、その仮説から繰り返し、繰り返し結果を求めていくというのが研究です。そのようなことを継続し、その患者以外の患者にも外装できるような理屈であるならば、その適切な患者を見つけて、そこにたどり着くにはヴァイオリンを聴きもし治っていくのであれば、それは健康へのkeyであるといえます。
それを諦めずに続けていけば、治療できるという可能性はあります。これが、リサーチャーとしての研究へのアプローチ方法です。
何が仮説なのか、それを確認するにはどのような方法が適切なのか、そのプロセスを繰り返すことです。あきらめないで続けると何かが見つかるかもしれないですし、その一方で、病気というのが単純な一つの理由で成り立っているのではない、年齢を重ねるということが原因であるとするならば、30歳の時と50歳の時は同じ状態とはいえないですよね。色々な中からこれが原因だと見つけるには、確率論的にいうとギャンブルに近い面があるので、適切な仮説を作っているのかということ、情熱と、第六感「ここに正解があるのではないか」ということによってイノベーションというものは見つかってくるのではないかなと思います。
音楽療法は病院では、副交感神経が優位になる、心拍数が減るなどといった効果が示されていると思います。
例えば、ヴィヴァルディ作曲の「四季」でも「春」の長調と「冬」の短調で身体に変化がある、など私は分かりませんが、感覚的に音楽は身体にとっては悪くはないのではないか、また、視覚情報を使わずに聴覚からの影響のみの音楽の方が、身体全体への負荷は減るのではないかなと思います。
我々の事業として現在(2022年9月20日)目指しているところは、末期の糖尿病患者は、膵島細胞というインスリンやエルカゴンといった細胞の機能が落ちているということが分かっていますので、弊社で細胞を作り、患者さんの細胞に移植すると、治療できるのではないか、というのが、我々の仮説です。
Q. 実際に、そのような細胞を作られているのですか。

野中社長
現在(2022年9月20日)は研究の段階ですので、それが本当に正しいのかということを調べています。世の中の決まりでは、その研究の成果や有効性や安全性が確認されたら、それは日本の厚生労働省が承認を与えるということになるので、その承認を持って、法律上、規制上はこの治療は患者さんに対してそれなりに安全である、だから販売してよいという仕組みになっています。それが弊社パンフレットに記載している「研究開発型企業である」という文言の理由になります。研究開発というのは、開発段階の薬を研究して人に対して安全であると証明できたらそれが初めて薬になるということです。
Q. 日本で唯一iPS細胞由来の細胞を研究されているのですか。

野中社長
唯一ではないです。弊社のユニークなところは、膵島細胞と心筋細胞といういわゆる違う細胞を狙っているということがユニークです。
Q. ほかの企業と異なる点はどのようなところですか。

野中社長
弊社の持っているテクノロジーが他の企業よりも優れていたり、優秀な研究者によって成り立っています。一つの細胞を研究するために莫大な労力とお金がかかるものなので、そこを創業当初から2つの細胞を持っているというのは珍しいことです。
Q. 優秀な研究者をお持ちだからこそ成し遂げられることとお考えですか。

野中社長
私はそのように信じています。実際、細胞を培養して分化させて機能するようになるには、その作業一つ一つに人の手が掛かっています。アルゴリズムにして自動的に行うというところまでは到達していません。人が感覚的に「もっとこのようにピペッティングの吸い方を工夫したらよいのではないか」とか、「時間をこのくらい置いたら良いのではないか」というように、その研究者のノウハウによって結果が変わるということもあります。研究者によってエフィカシーや能力やプロファイルが変わるという世界でもあります。
Q. 湘南ヘルスイノベーションパーク(iPark)に入居されている企業ということで強みはありますか。

野中社長
弊社は、たまたま湘南の地に創業し、そこに集まっていた武田薬品工業の研究者たちが関心を持って集まって作った企業です。ヘルスケア分野は世界を相手にする時代です。日本人のために仕事をするのは日本人からも望まれていない、とは思いつつ、この会社のorigin は湘南なので、湘南というものをキーワードにして会社を経営していきたいと思っています。実際iPark の中でもエコシステムとして成り立つようになっています。入居している同じ分野の企業に相談することが簡単にできます。
Q. 会社の社名の由来を教えてください。

野中社長
武田薬品工業株式会社さんと京都大学の共同開発プログラムが2015年からスタートしていて、そこの成果を弊社が受け継いだというのがスタートです。
共同研究の中から、膵島細胞と心筋細胞という二つの細胞の研究が次のステージに行けそうだと次の開発のステージはどのようにやろうか、という中で、それ専用の会社を立ち上げるとよいのではないかということになりました。二社がinitial investor となったのが弊社です。T-CiRA プログラムのロゴがオリズルのロゴでして、それをそのまま継承したので社名がオリズルになりました。
Q. オリズルというと折り紙の折り鶴をイメージしていたのですが、違うのですね。

野中社長
もちろん、折り紙の折り鶴が立体的に構築されて作られるという様が、我々が作っている細胞に似ているということもありますし、折り紙をきれいに折るには技術が必要なので、我々のテクノロジーを体現していると思います。
iPS 細胞は日本が発見したという事実は、日本人にとって思い入れがあるものですし、弊社内でも何とか患者さんに貢献したいという思いを持っている研究者が集まっていますので、そのような意味も込められています。実は「オリズル」という文字列の商標権の権利が社名を決める時点で残っていたのには驚きました。
Q. 野中社長の事業戦略、こだわり、想いを教えてください。

野中社長
私のこだわりは小さい会社なりに皆が期待している会社になろう、ということです。小さい会社での良さというのは、自分のやりたいことができる、意見が通しやすい、自分が思うのは小さい会社で長所だと言われていることが本当に長所だと実感できる会社にしたいと思っています。ゼロから生まれた会社ではないので、大企業からわざわざ支持して来てくれている社員の一人一人の期待に副える会社にしたいです。社会に対しては、通常のベンチャー企業よりも出資金を集めたりしていることもあり、iPark は外から見るとマグマのようなイメージをもっている人もいるので、その期待に見合う実績をつくりたいです。心臓移植は身体への負担が大きいが細胞移植であればその負担は少ないです。
心臓細胞は誰かの心臓をもらっているという意識がいつもありますが、細胞移植であれば、移植を受けた患者さんの気持ちをより楽にするかもしれません。
それと同時に、湘南にあるとか藤沢市や鎌倉市の人が誇りに思えるような、また、近隣住民の中学生や高校生の青少年が自分もこの世界に入ろうと思うような会社、日本の才能を効率よく最大化し、素質がある人達に向けてチャンスを与えられる会社にしていきたいです。このような行いは、会社に参加をしている人たちや、会社の周りにいる人たちにも良い影響を与えることができると思います。
例えば、研究者は真理を追究することに意識が行くことが多いですが、ピーター・ドラッカーが述べているように、企業や組織は社会の機関であり、社会の役に立つことを目的として存在するものです。ですから、私たちは会社を経営する上で事業を通じてどのように社会に貢献をするか、というところのストーリーを作ることも大事だと考えています。
それを踏まえて、弊社は日本にあるiPS 細胞技術を元にして社会に貢献していきたいです。
iPark は、アメリカ西海岸のサンディエゴや、サンフランシスコのスタンフォード大学エリア、ボストン、ロンドン、上海と並ぶ製薬のイノベーションを起こす拠点となろうとしています。弊社はこのiPark に入居をしているということが、同じ分野の企業との協働することにつながり、それが新たなイノベーションを起こす原動力となっていると感じます。

