Q. 香りの専門家になられた原点についてお聞かせください。
太田社長:大学院生の時に、サイエンスを学んでいました。就職活動の際に、次の2つのキーワード;クリエイティヴであること、お洒落であること、を自分の軸として、就職先を選びました。ファッションや音楽、クリエイティブディレクターといった分野・職業にも興味がありました。色々と調べるうちに、就職活動時に初めて香料業界という業界があることを知りました。
香りというものは、目には見えないものです。けれども、センスを問われるものであり、とてもクリエイティヴな要素を持ちます。また、お洒落でもあることから、自分の軸と合致すると気づき、日本で一番大きい香料会社である高砂香料工業会社に就職をすることを決意しました。
Q.香りに関して、いくつかお伺いしたいです。
先ず、香りの調合というのは、どのように行うのですか。
香料は2000種類以上を扱います。香料を調香する人は、その2000種類以上を全て自身の記憶と結び付けて記憶しています。何か作りたいイメージの香りがある時は、それらを自身の経験と記憶の感覚で組み合わせて調合を行います。例えば、私の場合ですと、頭の中には常時500種類程度の香りの記憶がストックされています。ワインのソムリエが香りを言葉で表現するのと同じように、香料業界でも独自の香りの表現手法が存在します。
流通している商品には、よく用いられる香料の種類がある程度決まっています。ですので、例えばシャンプーやリンスの香りを嗅いだ時に、含まれている香料の種類を分析する習慣が付いています。
Q.2000種類以上もの香料が存在しているのですね。身体への影響面に関してとても気になります。
太田社長:香料は基本的に食品香料と香粧品香料の2種類に分かれます。その中でそれぞれの用途に合わせて業界では使用香料の自主規制を設けており、身体への影響面は考慮されて創られています。

Q.なるほど、そうなのですね。次に、多様な人から共感を持ってもらえる香りというのはどのように創られているのかお聞きしたいです。
太田社長:最近は、香害といわれるように柔軟剤や洗剤などに使用される香料の香りが強すぎることで身体の不調を訴える人が増えてきています。香りはどのように工夫をしても、少なからず好き嫌いが出てきてしまうものです。万人に完全に受け入れられる香りを調合するのは難しい。しかし、苦手と感じられる確率を減らすことは可能だと考えています。
香料業界では、香りは、使用される香料原料の種類によって2種類に分けて考えます。一つ目は、一般的にエッセンシャルオイルと言われるアロマ(天然香料のみで調合されたもの)。
二つ目は、フレグランス(天然香料に加えて合成香料も使用され、上記アロマはフレグランスの中の1部という位置づけ)。ただ、世の中の一般的には「良い香り=アロマ」という概念が広まっておりアロマ柔軟剤と謳っているものも、
商品の多くは合成香料が配合されています。ターゲットや商品の特性を考慮して、ほのかなアロマの香りが良いのか、幻想的なフレグランスの香りが良いのかなどを考えて調香します。
香りは記憶と感情に深く結びつけられるものです。人々は、仮に育った環境や文化的背景が変わると、同一の香りに対し、全く異なる印象を持ちます。そこが興味深いところであり、多くの人の共感を呼ぶために考慮するポイントでもあります。
Q.エンターテイメントや、ファッションの一部という観点においての香り事業以外に、「記憶と感情に深く結びつけられている」という香りの特徴を活かした事業は検討していらっしゃいますか。
太田社長:2020年から、医療施設との共同研究もしています。将来的には、終末期の患者さんが、今までの人生のストーリーの中で感じた風景などを、再び五感で感じていただけるような、そのようなサービスの提供も考えています。例えば、北海道の富良野で見たラベンダー畑が忘れられない方が、実際の映像を見ながら、富良野のラベンダー畑を再現した香りを感じ、まるでその場にいると実感できるようなサービスです。
弊社CODE Meeeでは香りを以下の二つの方法で展開しています。
一つ目は、ソリューション・フレグランス(科学的なエビデンスに基づき、機能を遡求
する)。二つ目は、ブランディング・フレグランス(人の記憶に訴えかける香りの力を、
ブランディングに活用)。ソリューション・フレグランスでは「集中力が高まる香り」や、「リラックスできる香り」というように、機能面を遡求しています。
ブランディング・フレグランスでは、忘れられない体験を演出しています。例えば、
Vチューバーの香りを創ることで、ファンの人に二次元のキャラクターを立体的に感じていただいたり、音楽アーティストの公演では、曲をコンセプトにした香り演出などを行っています。
Q.香りによってリラックスできるというのも記憶と感情は結びついていると思うので、切っても切り離すことができない関係なのではないかと思いました。
太田社長:その通りです。将来的には、機能と感情の融合を目指すため、前述の2つのフレグランスを融合した形でのサービス提供を検討しています。
例えば、終末期の患者さんが、記憶と結び付けられた香りを嗅ぎながら、リラックスできる機能も提供できたら良いですよね。
Q.人工空間での森林浴も可能になるのではないかなとお話を聞いていて思いました。
太田社長:仰る通りです。都会のコンクリートジャングルで生活をしている人たちは、緑や癒しを求めています。弊社クライアントのオフィスで、植物を置き、小鳥のさえずりを音で流し、森林浴の香りを再現したところ、香り導入をしている際の脳波を計測した結果、ストレス値が下がり、リラックス度が上がるといった効果が出ているというご報告をいただきました。
Q.オフィスでの香り導入を行っているとのこと。香り導入の効果のデータは取られているのですか?
導入いただいた後で、ご意見や感想といった声は集めています。その他にも、都内のあるオフィスでは、被験者である社員さんの脳波を計測し、簡単な計算問題を解いてもらうなどして、複数の香りの導入の前後で気持ちの変化や仕事量の変化を比較する取り組みも行いました。その際、香りによって異なる結果が得られることも実証されています。

Q. 起業をされたきっかけについて教えていただけますか。
太田社長:高砂香料工業株式会社に勤務していた2010年ごろに経営者の本を読んでいました。特に、株式会社DeNAの南場智子社長の「不格好経営」に強く惹かれ、ベンチャー起業家の世界は面白そうだと思いました。自分の描いている未来に向けてゼロから事業を作っていくのは、とてもロマンがあり、楽しそうだと思いました。そのような意味でベンチャー起業家になりたいという意識が芽生えました。
そして、自分にしかできないことで世界を変えたいという思いから、どうせ起業するのであれば、自分の専門的なバックグラウンドを活かし、香りを軸に世界を変える事業を興していきたいと思いました。
会社員時代には海外出張の経験も多く、アメリカのニューヨーク, ニュージャージー、
フランスのパリといったように、世界の香料開発の最前線を経験したことも、意識変化につながったと感じます。
これから先の人生、一つのことに今まで以上に熱中して取り組みたい。
一度きりの人生を後悔しないためにも、その手段として起業に魅力を感じました。
Q.日本と海外の香りに関する違いは何なのですか。
太田社長:一番の違いは、香りを日常に取り入れる文化が違うということです。
例えば、アメリカではキャンドルは至る所で販売されています。
スーパーではスィートな甘さの、ココナッツやバニラといった香りのキャンドルが多く販売されています。香りに対する人の楽しみ方や日常生活での取り入れ方が異なります。

Q.最後に今後の事業展開について教えてください。
基本的には、ソリューション・フレグランスと、ブランディング・フレグランスという二軸で、世の中に彩りを与えていきます。ソリューション・フレグランスの場合は、現在はオフィス空間を中心に事業を行っていますが、今後は、医療現場での社会課題を解決できるように展開し、また、子どもの感性を育てる教育事業も行っていく予定です。
ブランディング・フレグランスでは、引き続きアーティストとの連携を
進め、今までにない新しい体験型のコンテンツを作っていきます。
具体的には音楽のアーティストやインフルエンサーと組み、曲の世界観や、パーソナリティを香りで体現し、ファンに向けての発信や、新しいライブの楽しみ方を提案します。
最近では街の香りブランディングも行っていまして、東京都港区の香りというものを産学官連携で制作しました。ヒトに感動を与え、元気になってもらえるような、今までにない新しい香りの楽しみ方の提案、ライフスタイルを作ってまいります。
Q.子供たちの感性に働きかける教育事業とはどのようなものなのでしょうか。
私には幼い娘がおり、小さいころから五感を刺激する本物に触れさせてあげたいと思っています。
例えば、教育という観点から素晴らしい絵画や音楽に触れる機会はあっても、香りを体験する機会はあまりないのではないかと思います。
そこで、私は子供たちの嗅覚を刺激する体系的な教育コンテンツを構想しています。子どもたちが、より豊かな感性や創造性を育むことで、未来はより一層進化していくと信じています。
Q.本日は貴重なお時間をありがとうございました。
太田社長:こちらこそありがとうございました。
文責:松本紘佳

